押し売り電話の相手に心をみる

私の職場には、ある特定の先輩によく不動産の押し売り電話がかかってくる。聞くところによると、その先輩の高校の卒業アルバムか何かが流出して、個人情報がだだもれになっているらしい。
あまりに高頻度で業務妨害のようにかかってくるので、基本的には「先輩はいない」ことにしているが(実際に外出率も高いのだが)、宵の口、うっかり先輩が電話を取ってしまった。案の定しつこい売り込み。先輩は会話中に電話を切ってしまった。すると、間をおかずに電話が鳴りだした。ベルはいつまでも鳴り続け、切れたと思ったら、1秒間を置かずに再び延々と鳴り続けた挙句、切れた。困ったことに、同時間に先輩から取引業者さんから電話がかかってくることになっていたので、この電話がそうでなければよいとちょっと願った。
数分後にまた電話ベル。私が取ってみたら取引業者だったので先輩に取り次ぐ。その通話中にまた別の電話が鳴った。ああ、押し売り電話だと思いつつ、通話中の先輩にベルがうるさいので仕方なく取る。受話器の向こうの第1声に曰く、

押し売り氏(若い男性の声)「なんで電話に出ないんですか。いるのはわかっているんですよ」
私「すいません、なんのことだかわかりません。わたくし、Aboshiですが」
押し売り氏「あ…すいません。Pさん(仮称)はいらっしゃいますか」
いると答えるバカはいない。
私「すいません。Pは帰りました」
わずかな間。
押し売り氏「何言ってるんですか。Pさん、いるんでしょう。わかってるんですよ」
私「帰ったものは帰ったと申し上げるしかないですね」
押し売り氏「はあ。たいしたコンビネーションですね。私も私だけど、あなたがたもあなたがたですよ。Pさんに言われてやってるんですか」
私「ですから、Pは帰ったとしか申し上げようがないのですが」
押し売り氏「はあ(深いため息)。PさんとAboshiさんとでは、どちらが上司なんですか」
私「あなたに申し上げることではありません。すいませんね」
押し売り氏「はあ、どうしようもないですね。切りますよ(間 髪を入れずに切れる)」

いつもうちの職場にかかってくる押し売りは、無表情または恫喝的のどちらかだ。でも、この押し売り氏はちょっと不器用なところや、言葉の片隅から本音が漏れてくるところに人間味を感じた。そうか、押し売り氏自身も、今している仕事がいいものとは思っていないんだなあ。この就職難のご時世、苦労した末に今の仕事をしているのかもしれんしなあ。
押し売り氏よ、多分あなたは今の仕事に向いてないよ。次にいい就職をしなよ。遠い空から少しだけ祈っておくよ。