(メモ)葛布は「くずふ」か「かっぷ」か

前々回のブログに葛布のことを書いたが、これを「くずふ」と読むのに違和感、または不快感を覚えていた。理由はいうまでもない*1湯桶読みをしているせいで、語感が悪くなっているのだ。おそらく大学時代に漢文を勉強した(どへっぽこですが)せいで一層そう感じると思うのだが*2、ちょっとググってみると、こんな記述が。先にも引用した大井川葛布のウェブサイト*3より。

葛布は「くずふ」とよんでいますが、産地では最近まで「かっぷ」とよんでいました。「くずぬの」という言い方もあります。
当社も創業当時「静岡葛布」(しずおかカップ)という会社で葛布を
カップとよんでいましたが、より多くの人にわかってもらうため、
「くずふ」の読みに統一しています。

なるほど。ちなみに静岡県周智郡森町、遠州森の石松*4の出身地の「森」ですが、そこにある滝は「葛布―かっぷ―の滝」。とあるブログ*5によると、「この地方に、葛が多く自生し、そのツルが何年も滝の水にさらされたため、繊維があたかも白布のようになっていたから「葛布の滝」と」したそうな。古くは「かっぷ」だったということでいい感じがしますね。
ちなみに我が家にある『新明解国語辞典』5版は「くずふ」、『広辞苑』第4版も「くずふ」。山田先生*6も新村先生*7も「くずふ」か。うーん、意識的に読みを変えたとすれば、「葛 くず」を読みで想像してもらいやすくしたのか、それとも「くず湯」なんかと合わせたのかなあ。ただ、『広辞苑』には「くずぬのとも。」とある。「くずぬの」なら訓訓だから「問題ない」のに、などと思ったが、現在あまり使われていない(と思われる)のは、「(ごみ)くずのぬの」と印象がついてしまうことを嫌ったんですかね。
以上、「葛布 くずふ」の湯桶読みひとつでぐだぐだ書いてきたが、田原市には「向八反田」という地名がある。読みは「こうはちたんだ」。つまりじ「重箱重箱」なわけだが、なんかここまでくるともはやすがすがしい、というか、なんか逆に語感がよくなってる感じがしますが、どうですかね?

*1:後日注釈。いうまでもない、って私にとってなだけのことかもしれませんね。まあ客観などというものはこの世にはないということでお許しを(ってそういう問題じゃないが)。

*2:私は「来日」を「らいにち」と読むのもいやでたまりませんが、みなさまはいかがですか?だからといって「らいじつ」ではわけがわかりませんが。

*3:http://www.kuzufu.com/about/pg244.html

*4:?-1860。清水の次郎長の子分で、「馬鹿は死ななきゃ治らない」の語源の人。

*5:浜松市ご在住というtutuさんのブログより。http://tutu.ti-da.net/e475401.html

*6:国語学者山田忠雄(1916-96)のこと。第1版から4版までの新明解国語辞典編纂の主幹を務めた。第5版には山田は関与していないが、影響は残っているということでお許しを。なお、このあたりがご専門の方は早くウィキペディア山田忠雄を立項してくださいね。ちなみにネット上で山田のことに一番詳しいサイトは一時期話題にもなった万省堂主人氏のウェブサイト(http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/3578/index.html)でしょうか。ただし平成17年2月以降ウェブの更新をなさっていないようです。

*7:広辞苑』の編纂にあたった言語学者新村出(1876-1967)、子の清(1905-92)のこと。