華夏族って何?

日本語版ウィキペディア漢民族の項目で今まであった記述をばっさり削除して、「漢民族の起源は華夏族」とか書き換えてる人物がいる*1華夏族って言葉自体が聞きなれないので、「えっ?」と思いながら中国語のページを遊泳してみる。とりあえず費孝通(1910-2005)との絡みが引っ掛かってきました。現代中国の学者・費孝通は非常に多方面に業績のある人物なので説明がしづらいですが、今回に関係する部分では「『民族識別工作』の名のもとに中国の民族を55に区分けした人物」ということが重要です。以下、翻訳はAboshiなので信用ならないと思った方は元にあたってください。

1 中国華中科技大 孫秋雲先生のウェブ上の論文より*2
"1988年、香港中文大学で費孝通は「中華民族の多元的かつ一体的な構成について」という演説を行った。その際、費は中華民族の6つの特徴の一つとして、中華民族は多元的かつ一体的な構成をしているが、これには凝集的な核心が存在する。これは初めには「華夏族」、後には「漢族」である、と説明した"
2 中国シカゴ総領事館のページより*3
"「華夏」の言葉がもっともはやく見られるのは『春秋左氏伝』襄公26年(B.C.546)の「楚 華夏を失う」であり、唐の孔頴達はこれに「華夏は中国なり」と疏をつけている。字義から言えば、「華」は「章服の美」を意味し、「夏」は「礼儀の大」を意味する。華夏族の祖先は黄河流域の炎帝黄帝が融合した文化圏で生活し、蛮・夷・戎・狄などの多民族も相次いで融合した。「華夏」が指し示すものは中原の諸侯であり、かつ漢族の前身であり、だから「華夏」が今なお中国の別称となっている"
すこしだけわかりました。私は知らなかったながら、大学の頃の講義でその種のことは聞いたことがあった気がします。費孝通は「中華民族の核は漢民族であり、そのエッセンスは古くから中原にいた「華夏族」にある」といいたいためにこの概念を使った*4んですね。梁啓超孫文以来続いていた「中国人」とは何かという探求の答えの一つではあるわけだ。なるほど、中華人民共和国の中国統合の根拠そのものになっている「華夏族」という言葉を、日本人の学者は用いたがらないわけだ(現にシカゴの総領事館がその理屈を援用しているわけだし)。
しかしこれは、意外にてごわいな。はじめて「華夏族」を現代の概念に持ち込んだ人物も費孝通以前に誰かいたかどうかもわかってないし、「華夏族」という言葉の学問上・政治上の展開もよく知らない。詳しい方のご教示が頂戴したいところです。
まあ、ウィキペディアとしてはとりあえず相手の方に「出典を出せ、日本語圏ではその考えは主流には程遠いぞ」でよいとは思いますが。

*1:http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%BC%A2%E6%B0%91%E6%97%8F&action=historysubmit&diff=32651976&oldid=32639600 ウィキペディア日本語版漢民族の変更履歴より

*2:http://www.socihust.cn/ReadNews.asp?NewsID=932(中国語)

*3:http://chicago.china-consulate.org/chn/zt/Z8/t628755.htm (中国語 ちなみに内容は法輪功の批判。総領事館のページでやることかいな?

*4:「作りだした」が妥当かもしれないが、費孝通以前に「華夏族」を作った人物の有無がわからないので、ここではひとまず「使った」にします