何をか恐れん、伊勢神トンネル

トンネル入り口

職場の同僚の誘い?で、同僚車に乗って豊田市にある(旧)伊勢神トンネルに行ってきました。
このトンネルは信州飯田から尾張名古屋に抜ける飯田街道の途中の峠のショートカットのために明治30年(1897年)に造られています*1。現在は新トンネル(昭和35年竣工)ができたことによりただのわき道と化していますが、心霊スポットとして有名となったために夏場には肝試し目的に若者が押し掛けることとなり、「伊勢神トンネル」でググってもそんなページばかり当たります。同僚もその関心もあって誘ったようです。一方で私はオカルトは信じないくせに小心者なので、こわごわ調べると…なんだ、このトンネルで工事とか事故で人が死んだことはどうやらないし、暗い事件があったわけでもないじゃん。よし、こわくねえよここ。まあ近代化史跡もここんとこあんま見てないし、行ってやるかと無理やり自分をかっこつけて行くことにしました。同僚は「人は死んでなくても、霊の集まるところってのがあるそうですよ」とさらにおどしてきたけど。
当日は今にも降りそうな曇り空。東海環状道の豊田松平ICで降り、足助の町を抜けてさらに30分くらい国道153号を走ると、ドライブインと新トンネル、それに旧道との分岐が見えてきた。ドライブインで一休みし、旧道の山道を5分くらい登ると、ああ、初めまして。あなたがうわさの伊勢神トンネルですね。
オール花崗岩の荘重な造り。入口上には扁額があり、右から左に「伊勢賀美」と左わきにたてに「正四位…(読めない)…基」の文字。「おお来たぞ来たぞ」と思いながら入ると、存外狭い。ポータルの幅員は3メートル。昭和に入れば自動車も走ったはずだし、この幅では荷車でも行き違えない場合もあったはずで、しかもトンネル全長は300メートル。双方の入口から「おおい、こっちから荷車が通るでのん、ええかん?」てな感じで声を掛け合って通ったのだろうか?
トンネル内はややひんやりしており、今でも電線が通してある(トンネル内には灯はないが、換気用のファンがある)。中は暗いが、ケータイやカメラのフラッシュで照らすと、花崗岩がしっくい(?)で固めてあるのがよくわかる。いやあ、この重厚感。このトンネルができた19世紀末からしばらく経つと、コンクリで固められたやや無味乾燥なトンネルばかりになってしまうので、この手のトンネルが残っていることは結構貴重(それゆえの有形文化財指定だが)。いいわあ。残念なのはいたずら書きがトンネル内でいささか多いことで、夜中の肝試しではここで酒盛りをしたり放歌高唱する輩もいるそうな。国の有形文化財を荒らすばかりか、本来味わうべきものをわかっとらんわ、まったく。もし霊が本当にいたら「なんてKYなやつらだ」とあきれとるわい。
トンネルの向こう側(旧下山村側)に出ると、すぐ近くに旧伊勢神峠への山道があったので10分かけて登った。天和に建てたお地蔵さまや、宝暦に建てた馬頭観音を見ながら峠へ。峠の上にはトンネルの名の由来となった伊勢遥拝所があり、やや荒れていたものの現在も遥拝できるようになっていた。もともとこのあたりの地名が「石亀」「石神」といったそうなので(石亀の地名は現在もある)、ごろあわせで伊勢信仰を持ち込んだのかな。なお、伊勢遥拝所ができたのは文久4年(1864)だそうなので、本居・平田篤胤以降の思想的準備ができたあとの代物といってよさそうです。
帰りはなんとなくいやがる他のメンバーをよそに、一度見たかった名鉄三河線の廃駅・西中金駅を経由しました(帰り道だったからいいじゃん)。線路・駅舎ともきれいに残ってるんですね。平日昼にも関わらず2組のおじさんたちが同時にいたことからして、結構人気のスポットのようです。
さて、伊勢神。なにがこわいスポットなんでしょうか。霊感がないからかもしれませんが、適度に歴史を楽しむことができました。いやまあ、城跡なら伊豆山中とか、高天神とか、諏訪原とか人が実際にうん百うん千と死んだところに行っているせいでそういう感覚がマヒしているのでしょうか*2。夜中に行ったらこわいというが、それもどうだろねえ。関西某市に下宿していた大学の頃、夜寝られないとよくサイクリングでK滝に行ったもので、すなわち何度となく真夜中のK滝トンネルも往復したけど、後で聞けば名にし負う心霊スポットなんですってね。私には何が心霊スポットなのかよくわかりません。

*1:築造年代については文化庁オンライン(http://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=150873)より。場所はYahoo!地図参照(http://map.yahoo.co.jp/pl?type=scroll&lat=35.17403230683413&lon=137.4333890866885&z=16&mode=map&pointer=on&datum=wgs&fa=ks&home=on&hlat=35.138348870351&hlon=137.33002748009&layout=&ei=utf-8&p=)。

*2:一応ですが、城跡に入る際にはそこで死んだ方への敬意は必ず忘れないようにしていますよ。